BOOK「マチネの終わりに」

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いわゆる読書家と呼ばれる人が年間100冊読むとするなら、私はせいぜい1週間に1冊仕事以外の本を読めれば良い方で、今年も1年の終りが近づき、はたまた誕生日が近づいて過去を振り返る時間が増えたせいか、11月に入ったのを機に、やり残した読書に向き合っている今日この頃です。

 

この本を手にとったのは、単純に書店で目について気になっていたから。もっとつきつめると、SNSで誰かが流したものが目について小説のページへたどり着いたのかもしれません。小説でとりわけ恋愛小説に関しては、人それぞれ多種多様なカタチがあって幸福であればそれで良いと思うのであまり手にしてこなかったのですが、平野啓一郎さんという人物がどういう言葉や想いで、恋愛を描いたのか?単純に知りたかったので読んだ次第です。

 

未来は常に過去を変えていく

天才ギタリストと、国際ジャーナリストの2人が40代という〝人生の暗い森〟を前に出会い恋の行方を軸に芸術と生活、父と娘、グローバリズム、生と死など、現代的テーマが重層的に描かれる、という作品です。

結論から言うと、私は最後の1ページにかけて洋子さんに感情移入していて、良い意味で涙が溢れました。そういう展開になってほしいとどこかで強く願っていたことが叶ってきっと安心したのだと思います。流れていく時間のなかで、過去を回想するシーンがいくつかあるのですが、同じ過去でも時間が経たないと分からない事実、一人じゃ分からない事実があって、平野さんが何度も同じ一文を用いるように「過去を受け容れた」時に見える世界か変わってしまう、だから未来は過去を変えてしまう。過去は過去、未来は未来、考えても仕方がないと「いま」しか見ていなかった私をふと立ち止まらせてくれた言葉でした。

 

最後にたどり着くまでにもちろん紆余曲折があるのですが、私にとってもうひとつ大きく印象的だったのは、嫉妬というテーマかもしれません。第六章でああいった展開になった時に、自分だったらそうはしないだろう!と思うからか、それをしてしまった三谷さんが印象的だったのだと思います。嫉妬がない人はいないし、自尊心が傷ついたことでネガティブになる必要ないし、醜くもない。逆を言うと、魅力的すぎる方が悪いとすら思うのですが、受け容れ方は人それぞれなんだとぐるぐる頭に浮かんでは消え、最後にかけてストーリーが進んでいくなかで、いつの間にかすっきりしていました。

 

印象に残ったものをまとめるとこのような感じでしょうか。短いですが、せっかく本を読み終わったので書いてみました。やはり読書は過去に体験した五感や忘れかけていたことをふっと呼び起こしてくれる貴重な時間です。せわしなく日常が過ぎていくなかで、ぜひ習慣化して続けていきたいものです。

 

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