映画「グリーンブック」(Green Book)

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(By official account @greenbookmovie)


人種差別について今見ておきたい映画

アメリカのミネアポリス近郊で黒人男性のジョージ・フロイドさんが白人警察から理不尽な暴行を受けた事件から、世界中に人種差別反対デモの動きが広まっています。それに触発される形で、アメリカ大陸を発見したコロンブス像や、イギリスの英雄とされてきたチャーチル像までもが人種差別への抗議の矛先になっていて、コロナで浮き彫りになった格差、貧困問題に輪をかけるように、人種差別問題による社会分断がさらに加速しています。この映画は、そこまで重い内容ではないですが、人種差別に対する理解を深めるのはもちろん、興味がなくともこういった映画は今見ておくべき内容だと思うので、レビューします。

“グリーンブック”という名の偏見と友情

早速ストーリーを要約すると、1962年黒人天才ピアニストであるドン・シャーリーがイタリア系アメリカ人の用心棒トニーを運転手兼世話役として雇って「黒人専用ガイドブック(=グリーンブック)」をもとに、ニューヨークからあえて人種差別の激しい南部エリアへコンサートツアーへ向かうという話です。さらに言うと驚くべきなのは、これが1960年代の事実に基づくストーリーということ。その証拠に、カーネギーホールやケンタッキー・フライド・チキン、ロバート・ケネディといった聞き覚えのある単語が出てきます。今から約60年前の1960年代というと、公民権運動が盛んな時代でマーチンルーサーキング牧師が「I Have a Dream」と有名な演説をしたり(1963年)、ジョン・F・ケネディマリリン・モンローがまだ生きていた時代で、古き良き貴重な楽曲をたまに聴きたくなるのですが、時代としては黒人=奴隷という差別がまだまだ色濃い時代だったようです。

そんななか、最初は白人トニーも床の修理工事にきた黒人が使用したグラスをゴミ箱へ捨てたり、「黒人の召使いなんてゴメンだ」と依頼を断ったり(でも結局渋々と運転手になります)、シャーリーの荷物を車に積まなかったりとプライドが高かったのですが、シャーリーのピアノ演奏を聞き、一緒に旅をしていくなかで、考えが変化していきます。そして、8週間の長い旅のなかで妻に手紙を書くのですが、小学生レベルだった内容がシャーリーの指導のおかげでロマンティックなものになっていったりと、微笑ましい場面もありました。ただ、黒人と一緒に行動することはリスクであり、白人警察から車を止められて罵倒されたりと様々なトラブルに巻き込まれます。

一方、黒人天才ピアニストのシャーリーも最初はトニーの品のない言葉遣いや振る舞いに嫌悪感を抱きますが、一緒にケンタッキーを食べてみたり、これまで聴かなかったロックなど新しい音楽を教えてもらったり、トニーの口達者に助けられたり、そして「お金のためではなく信念のため」ツアーに同行していると知り、だんだんと心を開いていきます。

*ここからは最後まで観たという前提で話を進めていきます。

私がこの映画を観ていて一番感動したのは、オレンジ・バードでピアノを弾くシーン。黒人ばかりのバーに飛び込んでいくトニーもすごいなと思いましたが、普段「スタインウェイ」のピアノしか弾かなかったシャーリーが、ステージに置いてある地味なピアノでショパンの木枯らしを見事に演奏したのち、全く弾き方のテイストの違うジャズを即興で弾いたのは、さすがプロの技でした。音楽には人種も国境も壁もないし、誰のためでもなく自分のために弾いていたような気がして、それも良かったなと。そして、人種差別からかどこか孤独感を感じていたなかで、トニーという真っ直ぐな理解者と出会えて、温かいクリスマスも迎えられて、希望に溢れる映画だったなと。

これは映画として綺麗なストーリーでしたが、黒人のコロナでの死者数が白人の2倍といったニュースを見ると、まだまだ根深い問題だと感じます。そんななか今私達にできることは何だろう?と考えたときに、例えばこういった映画を見て少しでも自分事のように考えられるといいなと。映画のなかでも同行している楽器演奏者がトニーへ「勇気が人の心を変える」とポツリと言ったように、お互いが歩み寄って安心して過ごせる世界になることを願うばかりです。


【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告

 

グリーンブック(字幕版)

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  • 発売日: 2019/10/02
  • メディア: Prime Video