映画「マネー・ボール」(Moneyball: The Art of Winning An Unfair Game)

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(By MoneyBall official FB account)


少し前に友人からおすすめされて、やっと見れたこの映画。その名も「マネー・ボール」というタイトルですが、どちらかと言うと野球がメインではなくマネーボール理論(セイバーメトリクス)という統計学やデータ分析を取り上げた映画です。スタートアップを学ぶ人は1度は見ている映画とも聞いた事ありますし、野球のルールがよく分かっていない私でも十分楽しめる映画だったのでレビューします。

意外に淡々としたストーリーで、効果音があまり無かったり、登場人物が多くて誰が誰だか分からなくなったり、昔の回想シーンとの時系列も重なったり、、と眠くなってしまったという感想もありますが、個人的には野球をあまり知らないからこそ、さらっと見れて楽しめる内容だったのかなと。アスレチックスという実在する野球チームの実話ですし、きっと野球経験者だとグッとくるものがあるかもしれませんね。

物語は、2001年10月15日のNYヤンキースvsアスレチックスの試合から始まります。この時、ゼネラルマネージャー(GM)であるビリー・ビーンブラッド・ピット)はまだマネーボール理論を知らない人間で、アスレチックスは弱小チームと言われていて試合に負けてしまいます。その試合後、キープレイヤーのジオンビやデーモンが金持ちチームに引き抜かれ、その後継者を探すためスカウトマンとGM(ビリー)との会議が行われます。そこで、ビリーはスカウトマンに対する疑問をぶつけます。

ここで、時間は遡り1979年ビリー自身がドラフト1位指名された時の回想シーンから、現在インディアンスという野球チームに選手獲得の交渉をするシーンへとうつります。そこでピーターとの運命の出会いを果たします。このピーター、野球をやっていたように見えないぽっちゃり君で野球未経験者ですが、イエール大卒経済学専攻でありスカウトマン達が素直に耳を貸すくらいなぜか信頼されています。そして「あなたは一体何者?」とビリーが詰めかけると、彼だけに本心を明かします。

ー  野球で何を把握すべきか、誤解している人が多すぎる。
メジャーリーグを運営する人たちが、選手やチームを理解していない。
ー   球団の人々は、選手を金で買おうとしているが、本当は選手ではなく“勝利”を買うべきだ。…デーモンの代わり?…僕から見れば彼は、得点の取り方がよく分かっていない。彼は守備は良い。1番バッターで盗塁も上手い。だが、年俸750万ドルも払う価値はない。
ー 野球界は古臭い。求めるものを間違えている。でもそれを言うと僕は村八分にされてしまう。だから、あなたにも言わなかった。だが、あなたを尊敬しています。正直言って、デーモンを放出したのは正解です。おかげで、あらゆる可能性ができた。

ここで、ビリーの中に「野球×数字=面白い」というスイッチが入り、むかし彼自身が選手時代に球団からオファーを受け「メッツのセンター」か「スタンフォード大学の奨学生」かの人生の選択において迷っていた回想シーンへとフラッシュバックします。そして、ピーターへ「あなたなら私をドラフト1位指名したか?」と尋ね「インディアンスから君を買った」ことを伝えます。

ピーターがアスレチックスに来た初日、悲しいことに他チームに引き抜かれたスター選手の横断幕が降ろされます。そして、ドラフト会議に同席し、スター選手に化けるだろう選手をピックアップするスカウトマンとは対立的に、彼らが主張したのはとにかく選手の「出塁率」に注目することでした。例えば、他チームに引き抜かれた3人のスター選手の出塁率を足して3で割った数字の選手を、ケガしていようが、年齢が高かろうが採用して穴埋めしたいと。要するに「計算式でカジノに挑んでゲームに勝つ」ことしか考えていないと話します。そして、計算式に則った選手に声を掛けていきチームを結成します。

ここでビリーが現役選手だった時代の回想シーンに戻ります。「逸材だ」と言われながらもなかなか結果が出せず、1年また1年…と思い悩む時間が流れていきます…

2002年4月1日、チーム結成して初めての試合。しかし結果は…チームが上手く機能せず勝利に繋がりませんでした。監督は監督として長年の自分の経験と勘を信じているため、ビリーがGMとしてチームに求める理論と目的意識がズレていました。そして、選手と交わらない方がクビにしやすい、という理由でピーターに「選手達に同行して欲しい」と伝えます。

その後、チームの不調は続き試合に負け続けるうちに「野球はコンピュータ・ゲームではない」などとビリーも批判を浴び、選手達の士気と結束力も欠けていきます。さらにビリーはマネーボール理論を信じるがゆえに独断で選手のクビを決めてしまいます。

ここで「感情で物事を決めてはいけない」とピーターとも衝突しますが、理論を信じているからこそ、それを証明するためにも、選手にクビにし監督に好き勝手采配させないよう手を打ちます。そしてチーム全体には「自覚ないだろうが、君たちは優勝する」と堂々と言い放ちます。このシーン、選手達の士気を高めるために言ったセリフだと思いましたが、自分に自信がないと言えない言葉だし、逃げ道を作らないという意味で彼自身のために刻んだ言葉でもあったのかな、とあとあと思いました。

そこから、選手達と距離を置いていたビリー自身もチームに介入していきます。元選手だからこそ、相手の立場に立った的確なアドバイスとデータ分析に基づいた理論でチームを結束させていきます。ヤンキースからスカウトしたプライドの高いジャスティンにはこんな風に声を掛けたり。

ー 君はもう37歳だ。お互い何を求めているか正直に言おう。
…僕は過去の君でなく、今の君に給料を払っている。
…話の意味は分かるだろ、若手の手本になれ。リーダーに。

そして2002年9月4日、驚くほど連戦連勝が続き、チームとしての歯車が順調に回りはじめ、世紀の20連勝を目の前にした試合で、アスレチックスに悲劇が訪れます。11対0の得点差から、相手が一気に11点追い上げてきたのです。守備はボロボロ、選手達もむしゃくしゃして空気の悪い中、監督が選んだのは、出塁率の高い(四球を選ぶのが得意な)ハッテバーグを代打で出すという選択でした。自分の手腕だけを信じてきた監督が、絶対に負けられないピンチな場面で、ようやくマネーボール理論を信じてみたのです。そして、見事にハッテバーグがホームランを打ち、ア・リーグ103年の歴史上初記録となる20連勝を達成しました。

ここで、ビリーは静かにガッツポーズをしますが、彼のゴールはここではありませんでした。

僕らは20連勝した。
- だから?
僕はこの世界にずっといる。最後に勝たなければ何の意味もない。我々のことなど、すぐに忘れられる。今までのことなど何も関係ない。…我々がこの予算でメジャーリーグで優勝すれば、世界が変わる。それが望みだ。そこに意味がある。

そして2002年地区優勝決定戦。負けてはいけない最後の試合で敗れてしまいます。一方、ビリーはその手腕を買われ、レッドソックスからGM史上最高額のオファーを受けます。しかしビリーはこのオファーを断り、レッドソックスは2年後ワールドシリーズで優勝しマネーボール理論を証明…といった余韻を残してこの映画終わります。

おわりに

この映画の良いところは、長年積み上げてきたものに数字でメスを入れて独自の理論で世界が変わった、という事実証明を学べるのはもちろんですが、いつだってチームや組織を動かしているのはスポットライトを浴びる方ではなくて、表には出ない裏側でつねに世界は動いている、といったところでしょうか。個人的には、メジャーリーグの見方が変わった映画でしたし、ゼネラルマネージャーのような女性にはなれない頂点の景色を垣間見れたような映画でした。ちなみに、この映画のモデルとなったビリーは現在もアスレチックスにいるようです。なんだか夢がありますよね。そして、ピーターも「ポール・デポデスタ」という実在の人物で、書籍の方がより詳しいようなので、そのうち読んでみようかなと。


映画『マネーボール』予告編

 

マネーボール (字幕版)

マネーボール (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video