映画「マネー・ショート」(The Big Short)

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(By official account@MoneyShortJP)

今回はリーマン・ショック時に「世紀の空売り」で大儲けした投資家達のこの映画。口コミを見てもなんだか難しそうな内容で、やめようかなと思っていましたが、金融用語が苦手な私でもセレーナ・ゴメスがこちらへ向かって語りかけてくれたり、リーマン・ショックの全容を網羅していなくても楽しめる映画だったのでレビューします。あの世界金融危機から10年以上経ちますが、「大量の失業者を生んだ反面、世紀の賭けに踊った人もいる」という史実が、現在のコロナ・ショックにも通じるものがあり、一定の周期で歴史は繰り返している事実と掛け合わせて、勝負に賭けるのは今だ!と直感を信じて成功をおさめたジョン・ポールソンの生き様や、投資家や銀行家の化かし合いのなかで、予兆を察しながらも倫理的にそれは人として正しいのか?教訓にもなる部分があったので、人生で1度は観ておくべき映画かなと思います。

ちなみに原作はマネー・ボールと同じくノンフィクション作家であり、そして元ソロモン・ブラザーズ(名門投資銀行)債券セールスマンであったマイケル・ルイス映画を振り返るとリーマン・ショックの裏で動いていた投資家達のマネーゲームは彼が金融業界にいたからこそ赤裸々に描けたストーリーだったのかもしれません。

早速、登場人物からざっくりと説明すると

♦️マイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)
モデルは「金融史に残る最高のトレード」をした投資家ジョン・ポールソン。サイオン・キャピタル(ヘッジファンド)を運営し元医師という経歴を持つ隻眼のトレーダー。コミュニケーション能力に欠け、常にTシャツ・短パン姿でいるため周囲から変人扱いされるが、誰よりも数字に強い天才。デスクではいつもヘヴィメタルを爆音で聴く。住宅バブルの崩壊をいち早く察知した。

♦️ジャレド・ベネット(ライアン・ゴズリング)
モデルは、グレッグ・リップマン。ドイツ銀行の若きトレーダー。マイケルの戦略を偶然知り、マークに共闘を提案する。口がうまく、人を扇動するのが得意。

♦️マーク・バウム(スティーブ・カレル)
モデルは、スティーブ・アイズマン。モルガン・スタンレー傘下のフロント・ポイント代表であり情熱的なヘッジファンドマネージャー。大手銀行の愚行を容認できず、金融業界で起きている真実を探り出そうと奔走する。正義感が強すぎるあまり、暴走してしまう不器用な一面も。

♦️ベン・リカート(ブラッド・ピット)
JPモルガンを引退した伝説のトレーダー。現在はオーガニック野菜を育てながらほぼ隠居状態に。野心に燃える2人の若き投資家から相談を持ちかけられ、彼らの勝負に協力することを決意。

♦️チャーリーとジェイミー
若き投資家。JPモルガン・チェースにハイレベルな取引がしたいと出向くが全く相手にされない。ロビーでジャレドの目論見書を偶然見つけ「ISDA(国際スワップデリバティヴ協会)の同意書」を得るためベンにコネクションをとり協力を取り付けることに成功する。

ここまで大丈夫でしょうか?さて、本題はここからです。
私なりの解釈ですが、まずは大切なポイントをお話します。

📍空売り(=Short)とはCDSという金融商品を使い債権に保険を賭ける事で成立する

📍MBSとは(Mortgage-based securities)
不動産担保証券。政府保証付きのAAAの住宅ローン債権をまとめて証券化したもの。劇中では女優マーゴット・ロビーがラグジュアリーなバスタブにつかってシャンパンを飲みながら解説してくれます。

📍CDOとは(Collateralized Debt Obligations)
社債や貸出債権(ローン)などから構成される資産を担保として発行される資産担保証券の一種で、証券化商品。劇中では有名シェフであるアンソニー・ボーデンが皮肉混じりに解説してくれます。

📍CDSとは(Credit default swap)
一種の保険契約のようなものでMBSの下落時の保証と言える。空売り契約をして値段が下がれば買い戻して利益を得る。デフォルト(債務不履行)で生じる債権の損失額を保証する契約がCDS

ここからは早速ネタバレを含んだ内容となります。
金融用語も出てきますが、観客を飽きさせないようにセクシーな女優など盛り込んでコメディチックにまとめているところが監督アダム・マッケイの手腕だなと。

ストーリーをざっくりとお話すると

ストーリーは、トム・ソーヤーの冒険で有名な小説家マーク・トゥエインの格言に始まります。

- 厄介なのは、知らないことではない。
知らないのに知っていると思い込むことだ。

ここでリーマン・ショックの元凶を作ったともされるMBSを作成したソロモン・ブラザーズルイス・ラニエーリが登場。ルイスのお陰でバンカーの生活は裕福で派手なものに一変しますが…30年後の2008年全てが崩壊します。

- 1930年代、住宅市場は全国規模で崩壊した。
半数の住宅ローンが焦げ付いた。…でも兆候はあった。
“ 詐欺まがいの相場”だ。跳ね上がる。

と不吉な笑みでマイケルは話します。さらに続けて

- 君は奇妙に思わなかったか?
2001年にITバブルが弾けても
中心地サンノゼの住宅価格は上がった。…

と聞き売上トップ20のMBSの担保を調べさせます。このシーン、マイケルがすでに「住宅バブルは弾ける」と数字を基に予見しておりいつ賭けるか?自分の直感のみを信じる、と強調していたシーンだったのかなと。さらにMBSの中身を開けてみるとリスキーなサブプライムの変動金利ローンばかりで、変動金利が実施されれば2007年にはデフォルト(債務不履行)になる予測を立て、ゴールドマン・サックスに「CDSを沢山買いたい」=「住宅市場が破綻する方に賭ける」と持ちかけますが冷笑されます。しかしマイケルは冷笑されても、他の銀行にも向かい13億ドルも買い回ります。ここで出てくる金額の大きさが桁違いで、ウォール街には違った世界が広がっているんだな…と感じるシーンでした。一方、間違い電話からその噂を偶然耳にしたマーク。同じオフィスで数字に強いヴィニーにABX指数(サブプライム関連指数)を調べさせると、下がっていることに気づきます。そして、(わざと?)間違い電話を掛けてきたドイツ銀行ジャレドと会うことに。

- MBSの中身を誰も知らない。…
市場が危険と判断したら、銀行はどうするか?
売れ残りのクズをリパッケージしてCDOに変えるんだ
…彼を信じるか?調べよう。

そう話し、現地マイアミへ向かうと住宅には100人4人しか住んでおらず、仲介会社に話を聞くと「無審査ローンだから、収入欄なんて書かなくても誰でも通して、お金を儲けている」とバブルが暴落する予兆を察します。

- 彼らはなぜ罪を告白している?
…あれは、ただの自慢なんだ。

その頃、若き2人の投資家チャーリーとジェイミーから協力の依頼を受けたベンは、彼らの資料から「住宅市場が破綻する」かもしれないと気づき、「空売りするなら最高だ」と彼らに賭けることにします。

2007年1月11日、住宅ローンのデフォルトは100万件に。しかし詐欺まがいに債券の価値は上昇し格付けはAAAのまま。この数字に違和感を感じたマーク格付け機関スタンダード・プアーズへ「不当な格付けだ」と訴えますが、「第三者に情報は開示できない」と誤魔化されます。そして正義感の強いマークは、ラスベガスで開催される証券フォーラムへ。さらに登壇者へ「サブプライムローンの損失は5%で済むと本当に思っているのか?…そんなはずはない。可能性はゼロだ、ゼロ!」と投げかけ会場を後にします。このフォーラムでは同時に、2人の若き投資家とベンも同じタイミングで情報を聞き出しにやって来ていましたが、マーク達もベン達も同じ事を考えていながらも、ただすれ違っただけなのでした。

サイオン・キャピタルの運用益がマイナスのままのマイケルは、詐欺まがいの相場にフラストレーションが溜まりドラムを叩き、投資家へ向けて通達をしますが、反感を買ってしまいます。

- 投資家の皆様へ
市場が正常に機能していないため、強硬手段に訴えます。
私は市場が不当であると信じています。
従って、投資家を保護するため、
資金の引き揚げを制限すると決めました。

2007年4月2日、株価指数が急落し市場がメルトダウンに。時限爆弾の爆発する日が近づき、犯罪行為のような取引がまかり通るなか、事態はさらに悪化していきます。そしてついにマイケルは13億ドルのCDSを売り「世紀の空売り」を成功させます。一方、「空売りをしてしまえば犯罪行為をしている連中と同じになってしまう」と自分の倫理観から足踏みしていていたマークも、最終的に全て空売りをし「みんな詐欺まがいなことをしていたけど、誰も裁かれてはいない…」といった余韻を残してこの映画は終わるのでした。

- 金儲けは想像と違った。
このビジネスは、人生の本質を失わせる。
仕事とは無縁な部分だ。
この2年は内臓が蝕まれるようだった。
…このファンドを閉ざすべきだと思った。

長くなりましたが、面白いと思った方はぜひ観てみてください♪

マネー・ショート華麗なる大逆転 (字幕版)

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  • 発売日: 2016/06/22
  • メディア: Prime Video